服部 正志
「○ 再 ↑ 生 ○」
会 期:2011年7月8日(金)~8月6日(土)
閉廊日:毎週日・月曜、7月26日(火)~30日(土)
開廊時間:11:00~19:00
クロージングパーティー 8月6日(土)17:00~
このたびYOD Galleryでは、2年ぶりとなる服部 正志(Masashi Hattori, b.1977)の個展を開催いたします。服部は、私たちが日常的に触れるあらゆる素材や既成品を用い、「ヒト」型のモチーフによるさまざまな立体作品を発表してきました。前回の個展では人間の「二面性」をテーマに、普遍性と違和感が混交した作品群によるインスタレーションと、会期前に開催した幼稚園でのワークショップで326人の園児たちと制作した作品「ワタシノマル」による外壁の展示が好評を博しました。
今回の新作展では、服部のアイデンティティを構成する重要な一要素が前面に押し出されます。彼の作品に見られる電化製品を素材・主題としたものは、昔ながらの町の電器店で育ち、幼い頃からさまざまな電化製品に触れる事ができた環境に起因しています。当時、両親の電器店には故障した電化製品の修理を依頼する人も多くあり、本体を分解し部品を取り替えて再び組み合わせ、古い電化製品が再生されていく様子を、彼は日常の出来事として認識していました。そこには、ものを大切にする思いと、故障した製品を介した人と人のコミュニケーションがありました。しかし、より高性能でデジタルな電化製品が続々と発表され、修理をして一つの製品を使い続ける人は激減し、両親の店を巡る環境は大きく変わりました。そのような実体験が彼の作品の表現に強く反映され、一見自動に動きそうで動かない、あるいは単純な動きだけを繰り返す、アナログな電化製品を意図させる作品群が生まれてきました。
また、今回の新作には「ヒト」型と「電線」が随所に出現します。彼にとって「電線」は人間同士をつなげるコミュニケーションの意味を示唆させるものですが、本来は基盤同士をつなぎ、そして電源へとつなげる、電化製品の実用性を保つ絶対不可欠なものです。そしてほとんどが本体の内部などに隠された状態にあり、私たちはその複雑な電線の実体を感じることなく電化製品を使用しています。隠された必要不可欠な要素が作品を通じて前面に出ることで、私たちはその概念を感じることが出来ます。つながっていく人間の数や思いのベクトル、そして電化製品が動くエネルギーのベクトルまで、全ての本質は具体的に見えないものや日常的に意識しないものにある、つまり物象の裏側にあるものを読み取る重要性を彼は私たちに投げかけるのです。
これまで服部は、電化製品を素材・主題とした作品の発表はあくまでも展示の一部に止めていました。その理由として彼は、「電器屋の息子」というイメージは自らの要素の一部分でしかなく、あらゆる物質的なものや概念的なものをリンクさせて「人間のコミュニケーション」を訴えることが第一にあると強く意識していたからです。当展で初めて全ての作品を電化製品に関わるもので構成しようとしたきっかけは、先の東日本大震災にありました。私たちが日々何気なく使用し、生活の利便性を享受してきた現代の電化製品に対する見方も、この震災を期に大きく変化しました。しかし、以前から電化製品の万能性に疑問を持ち続けていた彼にとっては、作品を通じて訴え続けてきた問題が現実に露呈しただけだと語ります。近年の技術の進化によって私たちと電化製品との間の距離感は一気に縮まりましたが、一方でその利便性から電化製品の存在に依存した生活に慣れてしまった私たちは、電力問題での混乱という現実に直面しています。服部が今回作り出す作品には、人と人のコミュニケーションのあり方と共に、彼の過去の実体験から得た人とモノの健全な関係性が強調されています。人間同士の付き合い方と電化製品を含めた人が作るモノとの付き合い方の共通点と相違点を感じ取っていただきながら、現在を生きる私たちの在り方に心を巡らせていただければと思います。ぜひこの機会にご高覧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。