加賀城 健
「Positive Taboo」
会 期:2009年3月3日(火)~21日(土) (3月20日(金・祝)は開廊いたします。)
閉廊日:毎週日・月曜 開廊時間:11:00~19:00
近年、コンテンポラリーアートの分野に、伝統を規範とした日本の工芸の手法を駆使した作品・作家が数多く登場しています。次世代の新しい価値観を探求し創り出すことを目的としたコンテンポラリーアートにとって、日本の工芸はデジタル全盛の科学の進歩に対抗した手仕事の復興や、世界のグローバル化によって失われつつある日本の歴史や日本人のアイデンティティの見直しといった恰好のテーマを有していました。そのために、近代以降の欧米化により美術と工芸に分離された日本のものづくりは、昨今のアートの流れの中で両者の隔たりが再び取り除かれようとしています。
2年目を迎えます弊廊スペースでの本年最初の展覧会は、伝統的な染色の手法を用いて次世代の日本の工芸とコンテンポラリーアートの両面を切り開こうとする加賀城 健 (Ken Kagajo, 1974-) の個展を開催いたします。加賀城は大阪芸術大学にて伝統的な染色技術を学び、その頃から旧態然とした美術工芸の考え方に疑問を投げかけてきました。現在では美術的な自己表現と工芸の関係性、そして工芸のこれからのあり方を探求しながら、染色の分野では"タブー (Taboo) "とされる技法を用いながら表現を続けています。
加賀城のもっとも象徴的な作品は、にじみ・ぼかし・脱色を多用して布の上に抽象画的な表現がつくりだされたものです。伝統的な制作過程においては、複製することを念頭に品質の平等性を求められます。しかし加賀城が用いる技法は二つと同じものが生まれず、いわば失敗のものとして扱われてきました。彼のこれまでの精力的な発表活動を概観すると、これら"タブー (Taboo) "な技法の中に彼の身体感覚の強い表現が加わって、新しい表現のエネルギーが満ち溢れています。彼の大胆な抽象画的構図の形成力が、伝統技術の隅に追いやられていた技法とあいまって、従来の染色を裏切るような独自性の強い作品が生み出されます。
伝統工芸とは、過去から連綿と受け継がれた手仕事技術の結晶であります。しかし、ただ技術を未来へ伝承するだけではなく、通り過ぎていく時代のニーズや価値観で肉付けされながら、形を変えて受け継がれていくべきものです。加賀城が表現するものもまた、従来の価値観を裏返すことによって染色の新たな創造領域を作り出すものであり、現状の染色の世界や工芸全体のあり方を"建設的 (Positive) "に問い直すことができます。そして前述のようにあらゆる工芸をコンテンポラリーアートになぞらえていく最近の流れにも、警鐘を鳴らすことができるでしょう。弊廊での発表は、伝統の中にある様々な価値を一旦フラットにして、次世代の工芸のあり方を問い直す加賀城独特の作品を、新しい哲学を創る使命を与えられたコンテンポラリーアートの名の下で表現することが相応しいと考えたからです。
当展では、加賀城のこれまで工芸の分野で高い評価を受けてきた脱色の作品から、新たに再開した染めの作品をタブロー形式で発表するとともに、彼本来のスタイルでもあるインスタレーションを含めた複合的な展示でご紹介いたします。"タブー (Taboo) "の技法で制作され、染色のスケールを無視した展示の中で、アートとは何ぞや、工芸とは何ぞやを皆さまとともに再考していきたいと思います。ぜひこの機会にご高覧賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。